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通勤の科学

Book Report

通勤時間は人生を削ってしまう

週3のシフトワークで体内時計が破壊される

 組織行動学者のジェフリー・フェファーが手がけた大規模な研究によると、「従業員に悪影響を及ぼす労働条件」として「時間の乱れ」が挙げられます[1]

「時間の乱れ」は、働く時間の混乱が原因で健康リスクが増大するパターンです。やたらと労働時間が長かったり、出勤時間がコロコロ変わったり、プライベートを過ごす時間がなかったりと、労働のタイミングに問題がある状態を指します。

 さらに、「時間の乱れ」は次のサブカテゴリに分かれます。

・シフトワーク
・長時間通勤
・長時間労働
・ワークライフバランスの崩壊

 いずれも心身には悪影響がありますが、まず考慮しておきたいのが「シフトワーク」です。これは、不特定なタイミングで深夜や早朝に働かねばならない仕事のこと。2万人の労働者を調べた2014年のメタ分析によれば、9時~5時で働く人と比べた場合、週に3回以上のペースでシフトワークを行う人は糖尿病の発症リスクが42%上がり、コレステロールや血圧も激増していました[2]

 また別の研究では、年に50日以上のシフトワークを続けた人は、脳機能のスコアが大きく低下しており、この数値を年齢に換算すると、同年代の人に比べて平均で6.5歳ほど脳が衰えた計算になります[3]

シフトワークが体に悪いのは、「体内時計のリズムを破壊するから」です。私たちの体は、日の入りとともに睡眠をうながすホルモンを分泌し、適切に体を休めてコンディションを調整するように設計されています。にもかかわらずシフトワークで人体のリズムを乱すと、睡眠の質が下がり、メンタルと体の両方に甚大な悪影響を及ぼすのです。

[1] Joel Goh, Jeffrey Pfeffer, Stefanos A. Zenios (2015) The Relationship Between Workplace Stressors and Mortality and Health Costs in the United States
[2] Guadi M, Marcheselli L, Balduzzi S, Magnani D, Di Lorenzo R (2016) The impact of shift work on the psychological and physical health of nurses in a general hospital: a comparison between rotating night shifts and day shifts
[3] Jean-Claude Marquie et al. (2013) Chronic effects of shift work on cognition: Findings from the VISAT longitudinal study

通勤時間が長いと太って離婚しやすくなる

 長時間の通勤が好きな人はいないでしょう。すし詰めの電車にゆられて過ごす時間はストレス以外の何ものでもありませんし、ここ数年のデータも「通勤時間が長くなるほど人生が不幸になる」との結果を示しています。

 有名なのはチューリッヒ大学の経済学者であるブルーノ・フライが発表した2004年の論文で、1985~2003年にかけて行われた幸福度調査を分析し、「長時間の通勤がもたらすストレスの高さは年収が40%アップしないと割に合わない」との結論を導き出しています[4]

 同様にカリフォルニア大学が10万人の健康データを分析した調査では、通勤時間が長い人ほど肥満が多い上に、離婚率まで高いとの傾向も出ています[5]。長時間通勤は、あなたの体型と結婚生活にまでダメージを及ぼすわけです。
また2011年にスウェーデンで出た論文によると、夫の通勤時間が45分を超えると、その夫婦の離婚率が40%も上がったと報告があり、ギャロップ社の調査では、通勤に90分以上かかる人は不安感が高くて日々の満足感も少ない結果になっていました。

 このような結果が出たのは、長時間の通勤には、私たちのライフスタイルをむしばむ作用があるからです。ブラウン大学の研究チームは、通勤時間が1分増えるごとに次のような健康リスクが起きると推定しています[6]

・運動時間が0.0257分ずつ減る
・睡眠時間は0.2205分のペースで少なくなる

 日本人の通勤時間の平均は往復1時間17分なので、おおまかに換算すると年間で約73時間も睡眠時間が消えていることになります。

[4] Bruno S. Frey (2004) Stress That Doesn’t Pay: The Commuting Paradox
[5] Javier Lopez-Zetina (2006) The link between obesity and the built environment. Evidence from an ecological analysis of obesity and vehicle miles of travel in California
[6] Thomas James Christian (2009) Opportunity Costs Surrounding Exercise and Dietary Behaviors: Quantifying Trade-offs Between Commuting Time and Health-Related Activities

週41時間以上の労働で脳卒中のリスクが上がる

 働きすぎが体に悪いのはもはや常識。いまや「過労死」も世界に通じる言葉になったように、働きすぎのストレスがあなたの幸福を破壊するのは間違いありません。具体的な数値を挙げると、長時間労働と健康リスクの関係は次のようになります。

・週の労働時間が40時間までなら目立った問題は出ない
・週の労働時間が41~48時間になると脳卒中が起きるリスクが10%高まる
・週の労働時間が55時間を超すと、脳卒中リスクが33%、心疾患リスクが13%、糖尿病リスクが30%高まる

 以上の知見は、ヨーロッパ、アメリカ、日本などから約22万人分のデータを集め、およそ8年にわたる追跡調査を行って明らかになった事実です[7]

 データの傾向は世界中で一致しており、週の労働が40時間を過ぎたあたりから体が壊れ始め、週55時間を超えると確実にあなたの心身は崩壊に向かい始めます。厚労省は週80時間を超す残業を「過労死ライン」に定めていますが、この基準よりもかなり下の段階から早期死亡リスクは高まるようです。

 この問題ばかりは、いかに普段からストレス対策をしていようが、防ぎようがありません。職選びの際には、くれぐれもご注意ください。

[7] Mika Kivimäki et al. (2014) Long working hours, socioeconomic status, and the risk of incident type diabetes: a meta-analysis of published and unpublished data from 222 120 individuals

通勤時間は「今日の目標」を考えよう

長時間の通勤は激しくメンタルに悪く、通勤時間が長くなるほど以下の影響が起こりやすい。

  • 給料が低い!
  • 睡眠が少ない!
  • 肥満が多い!

セルフコントロール能力が高い人は通勤でダメージを受けない

ハーバード・ビジネス・スクールから出たデータ(1)の、「通勤のダメージを受けやすい人と受けにくい人がいる!」について紹介。

結論としては次のようになります。

  • セルフコントロール能力が低いと、長時間通勤のダメージに弱い
    仕事の満足感も下がっていき、会社を辞める確率も激しくアップ
  • セルフコントロール能力が高いと、長時間通勤のダメージに強い
    長時間通勤のストレスにあまり影響を受けず、仕事の満足度も高いまま
  • セルフコントロールが高い=通勤中に仕事の準備をするなど、ゴールに向かった作業を行う
  • セルフコントロールが低い=通勤中に音楽を聞いたりぼーっとしたりと、苦痛から逃げるために時間を使う

セルフコントロール能力が低い人はどうすればいいの?

今日の目標」について考えながらの通勤をすると良い。
具体的には次のようなことになります。

  • 今日のゴールはなんだ?
  • 目標のために必要な作業はなんだ?
  • どんなトラブルが起こりそうか?

目標について考えながら通勤したグループは、1日の疲れが少なく、感情がすり減らず、仕事への満足感が高くなった。もとのセルフコントロール能力が低くても、通勤中の過ごし方を変えるだけでもダメージは減らせるようです。