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「ポジティブ思考」の罠

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「なりたい自分になるには、理想の姿をありありとイメージしなさい」、「自己実現のために、ネガティブな考え方からポジティブに変わろう」といった話はよく聞きますが、これは本当なのでしょうか?

人のモチベーションについて20年以上も研究を続けている心理学者ガブリエル・エッティンゲン氏によると、上記のような理想の姿のイメージやポジティブ思考を持つだけでは、かえって逆効果だと報告されています。

手術後をポジティブに考えた患者ほど回復が遅れた

ニューヨーク大学のガブリエルエッティンゲン博士らの研究(#1)によると、ポジティブ思考が場合によっては目標達成の邪魔になることが分かりました。

手術をこれから行う患者たちに術後の将来について思い描いてもらう実験です。

  • 51人の患者、平均65.7歳
  • 「術後にどのくらい歩けるようになってる?」など将来へのポジティブ度を測定
  • 未完成のシナリオ(患者と似た境遇)の主人公を自分に当てはめて考えて完成させてもらう
  • そのシナリオがポジティブ/ネガティブなものかを点数をつけてもらう

簡単に言うと患者のポジティブ度を色々な方法で測定したということです。

すると結果としては、次のようになりました。

  • ポジティブに楽観視していた人は術後の回復がよくなかった
  • 現実的に捉えていた人のほうが術後の回復も早かった

これは、ポジティブになりすぎるあまり術後の自分の状態も「すぐ回復するだろう」と楽観視してしまうからなのだとか。結果、輝かしい未来を先に堪能して満足していまい、努力を怠るんだと考えられています。一方で現実的に考えていた患者は、術後もしっかりリハビリなどに励んだことで、回復も早まったようです。

この結果から、空想派ポジティブ思考の人たちは目標に向けて努力を怠る傾向が見られました。

例えば「就活中の学生」ではもらえた内定数が少なかったり、調査時の収入が低い傾向にあったり。「異性に恋をしている学生」では、結局大してアタックしてなかったり、デートに持ち込めてなかったり。

他にはダイエットを目指す女性を対象にした実験(#2)でも、同様に空想派ポジティブ思考の女性は顕著にダイエットに失敗したという報告もあります。

肥満ぎみの女性に1年間ダイエットに挑戦してもらった結果

冒頭でも紹介した心理学者ガブリエル・エッティンゲン氏が1991年に報告した「ポジティブシンキングはいつもポジティブな結果になるのか?」という論文です。

Expectation, fantasy, and weight loss: Is the impact of positive thinking always positive?

その実験は減量プログラムに参加している25名の女性を対象に行われました。

まず、参加者を半分のグループに分けて、片方のグループには「減量が成功した理想的な自分」というポジティブな姿だけをイメージしてもらいます。例えば、スリムになって外出する姿などです。

もう一方のグループには、ドーナツなどの甘い誘惑を我慢しているような、これから起こるであろう障害も想像しながら減量プログラムをしてもらう、という実験内容でした。

そして、1年後に再調査を行なった結果、なんと苦しい障害も想像したグループの方が平均11キロも多く減量に成功したという結果でした。

このガブリエル・エッティンゲン氏は他にも様々なテーマでの実験結果を報告しています。

例えば、2014年の関節炎の手術をした老人を対象とした以下の調査です。

Positive fantasies predict low academic achievement in disadvantaged students

実験方法は上記と同じで、手術直後に「どれぐらいの早さで回復するか?」を予想してもらうものです。

その結果、起こりうる障害も想像した被験者の方がポジティブなイメージだけの場合よりも、筋肉の発達が早く、歩けるようになるまで時間も短かった、という内容でした。

理想の姿に到達するまでの “起こりうる障害” も想像すること

上記の実験結果が示しているのは、「なりたい未来の自分を想像すること」は大事だけれど、それに加えて、「そこに至るまでの苦しい障害と、それを乗り越える自分」”も” 想像してくださいということです。

エッティンゲン氏の実験結果は、自分のなりたい未来は、簡単に手に入るものではなく、私たちは、なりたい理想の姿を思い描きつつ、一方でしっかりと現実を見据えて、コツコツと努力していく必要がある、という事実を伝えているのだと思います。

まとめ: 目標を実現していくために考えること

エッティンゲン氏は、自身のこれまでの研究結果から、以下のように述べています。

ポジティブシンキングが有効に働くのは、

  1. なりたい未来の姿や目標を実現したいと、自分自身で心から思えている場合で、かつ、
  2. その目標に至るまでの起こりうる障害について想像できている場合である、と。

もし、あなたが今の現状を打破して、違うことにチャレンジしようと思っている時、

なりたい未来の自分を明確に思い描くとともに、そこに立ちはだかる起こりうる障害についても想像できれば、きっとその将来の姿は実現できると思います。

参考文献&引用

#1 Gabriele Oettingen,Doris Mayer,”The Motivating Function of Thinking About the Future:Expectations Versus Fantasies“,Journal of Personality and Social Psychology Copyright,Vol.83,No.5,pp1198–1212,2002.

#2 Gabriele Oettingen ,Thomas A. Wadden,”Expectation, fantasy, and weight loss: Is the impact of positive thinking always positive?“,Cognitive Therapy and Research,Vol.15,No.2,pp 167–175,1991.

#3 Expectation, fantasy, and weight loss: Is the impact of positive thinking always positive?

#4 Positive fantasies predict low academic achievement in disadvantaged students